基本単語で学ぶ高校英語

基本単語で学ぶ高校英語

はじめに

この本は、高校生または大学受験生を対象に書いたものだ。

私は、この本とは別に、『高校生のための英文法』という本を書いている。

『英文法』を書いた動機は、高校生に勧めることができる英文法の参考書がないからである。ないのだから、誰かが書かなければならない。少し、使命感というか、悲壮感みたいなものが漂っている。

『英文法』の方にも書いたけれど、唯一絶対に正しい文法、などというものは存在しない。「文法学者が100人いたら、100通りの文法がある」(小西甚一)のであり、私が書いたものも、その100通りのうちのひとつである。だから、他の文法学者から見れば、ここはおかしい、と思うようなことがあるに違いない。

といっても、私は文法学者ではなく、一介の英語学習者にすぎない(文法学者だってそうなのだが)。英語という言語にアプローチする方法は、英語を使用する人の数だけあると考えていい。その意味で、私は「我々の英文法をつくる」という表現をした。「英文法を学ぶ」でもなければ「英文法を発見する」でもない。ひとつの観点から、一貫したアプローチのもとで「作りあげる」ものが英文法である。それも、「我々の」もの、でなければならない。

それに対し、この『基本単語』は、文法というよりも語彙・語法から英語という言語にアプローチするためのものである。

これに関しては、高校生に勧めることができるテキストは、ないどころではない。ちゃんとある。『英和辞典』である。

私は昔から「辞書を読め」と学習者にしつこいぐらいに言ってきた。辞書には、とくに高校生向けの学習用英和辞典には、英語という言語の世界を旅するための詳細な地図が詰まっている。それは地球儀のようにひと目で見渡せるような俯瞰図でもないし、Googleマップのような便利な操作性があるわけでもない。地図として扱いにくいものであることは確かである。それでもやはり、辞書に書いてある程度のことを「知らない」「わからない」などとは言って欲しくない(だって、調べれば書いてあるんだから)。

私は『英文法』シリーズを「名詞と冠詞」の章から書き始めたが、たとえば不定冠詞(a, an)の用法などは、英和辞典のaの項目にちゃんと書いてある。でも、多くの高校生は、辞書でaの項目を調べて、読み込んでみる、ということをしない。おそらく面倒なのだろう。

では、なぜこの本を私が書こうと思ったかといえば、やはり、私自身、「面倒だ」と感じることが多いからだ。

たとえば、all but, anything but, nothig butなどの基本的な表現は、butの項目で整理しておいて欲しいのだが(できれば「どうしてそういう意味になるのか」という解説までしておいて欲しいのだが)、butを辞書でひくと、「anything but→anything」などと書いてある(anythingの項目に書いてあるからそちらを参照せよ、の意)。all butもnothing butも同様。

これではいかにも扱いづらい。大学生以上の英語学習者であれば、複数の辞書を同時に「串刺し」で調べるようになるので、こんなていどのことを「面倒だ」などと思ってはいられないし、そもそもanything butだのnothing butだのといった超基本的表現を調べるような事態もそうそうないのだろう。

しかし、高校生にとっては、「前置詞としてのbut」は初めてお目にかかる表現である。そうすると、授業をする私も、あらためて「butとはなにか?」ということを丁寧に教えなければならない。その意味で、この本は、私が授業で楽をするために書いている、と言ってもいい。

もちろん、高校生に限らず、英語のベーシックな部分をやりなおしてみたい、という英語学習者にとっても便利なものになるだろうと思う。

これを書いている時点で、高校生に勧めたい英和辞典は『アンカーコズミカ英和辞典』(学研)であるが、この本の執筆にも、主要には『アンカーコズミカ』を使った。もちろん、他の複数の辞典を「串刺し」で調査したが、それについてはいちいち明記しなかった。

大学受験までは、1冊の辞典と心中する覚悟で、1冊の辞典を繰り返し読み込んで欲しい。「俯瞰」するのは受験に合格するまでとっておいて、それまでは、項目から項目へ、辞書という宇宙のなかを、細い針と糸で縦横無尽にくぐっていって欲しい。1冊の辞典をものにすれば、英語という言語を俯瞰する、ひととおりの「観点」が築きあげられるはずだ。