高校生のための英文法:名詞と冠詞

第3節 〈名詞〉について(2):〈名詞〉の〈単位性〉

〈冠詞〉と〈名詞〉の〈単位性〉の関連について触れた後で、学校英語の5分類に対処していこう。

3-1: 可算名詞と不可算名詞について

〈可算・不可算〉の問題に再度触れておく。これは〈冠詞〉の問題にもつながっている。

3-1-1: 〈可算名詞〉の基本的用法

〈可算名詞〉には〈単数形〉と〈複数形〉がある。〈複数形〉は、〈単数形〉の語形を変化させるのがふつうだが(dog → dogs、foot → feet)、〈単複同形〉とよばれる、〈単数形〉と〈複数形〉の形が同じものもある(fish → fish)。

〈単数形〉のばあいは、原則として、〈冠詞相当語〉が、その名詞に先行して述べられていなければならない(〈冠詞相当語〉については後述)。多くの文法書が「〈名詞〉に〈冠詞〉がつく」と書いている。これが決定的に誤りであることは、マーク・ピーターセン『日本人の英語』が1988年に大ベストセラーとなったことによって、多くの日本人の知るところとなった。引用しておこう:

日本の英文法書では"a(an)"の「用法と不使用」を論じるとき「名詞にaがつくかつかないか」あるいは「名詞にaをつけるかつけないか」の問題として取り上げるのが普通である。ところが、これは非現実的で、とても誤解を招く言い方である。ネイティブ・スピーカーにとって、「名詞にaをつける」という表現は無意味である。

英語で話すとき――ものを書くときも、考えるときも――先行して意味的カテゴリーを決めるのは名詞ではなく、aの有無である。そのカテゴリーに適切な名詞が選ばれるのはその次である。もし「つける」で表現すれば、「aに名詞をつける」としかいいようがない。「名詞にaをつける」という考え方は、実際には英語の世界には存在しないからである。

(中略)

つまり、aというものは、その有無が一つの論理的プロセスの根幹となるものであって、名詞につくアクセサリーのようなものではないのである。(『日本人の英語』[11-13])

ここでマーク・ピーターセンが「意味的カテゴリー」とよんでいるのは、我々が先に「単位的区別」とよんだ「数えないことには意味を為さないのか、数えてしまっては意味を為さないのか」という区別に重なる。

例えば、もし食べた物として伝えたいものが、一つの形の決まった、単位性をもつ物ならば、"I ate a...a...a hotdog!"(あるいはa sandwich, a rice ballなど)と、aを繰り返しつつ、思い出しながら名詞を探していくことになる。もし食べた物として伝えたいものが単位性もない、何の決まった形もない、材料的な物ならば、おそらく"I ate...uh...uh...meat!"(あるいはFrench bread, riceなど)と思い出していうであろう("uh"というのは、日本語の「アノー」とか「エート」とかいうような、考えているときにネイティブ・スピーカーが動物的に出す音)。(『日本人の英語』[13])

3-1-1-1: 〈可算名詞〉の一般的用法

〈可算名詞〉の用法を、「一般的用法」と「総称用法」に分けておくことにする。

まず一般的にいえる、〈可算名詞〉の語法を整理しておこう:

  1. 〈不定冠詞+単数形〉 a dog(一匹の犬、ある犬、犬というもの)
  2. 〈無冠詞+複数形〉 dogs(何匹かの犬、犬というもの)
  3. 〈数詞または不定数を表わす語+複数形〉 two dogs(二匹の犬)、several dogs(数匹の犬)
  4. 〈定冠詞+単数形〉 the dog(その犬、犬というもの)
  5. 〈定冠詞+複数形〉 the dogs(その犬たち)

いずれも、中学英語のレベルであって、拍子抜けしたかもしれない。「不定数を表わす語」(some, a few, severalなど)は〈冠詞相当語〉のひとつである。

この5つの例のうち「犬というもの」という意味が3つあることに注意しておこう。これが次に説明する「総称用法」である。

3-1-1-2: 総称用法(総称表現)

「犬というもの」というように、その種類に属するメンバーに共通して見られる属性を表現したいときがある。これには、今述べたように3種類ある。

  1. 〈無冠詞+複数形〉 Lions are dangerous animals.(ライオンは危険な動物だ。)
  2. 〈不定冠詞+単数形〉 A lion is a dangerous animal.(ライオンは危険な動物だ。)
  3. 〈定冠詞+単数形〉 The lion is a dangerous animal.(ライオンは危険な動物だ。)

もっとも一般的なのが例文1である。

例文2は、「ライオン」というグループからサンプルをひとつ抽出して、それに「ライオン」全体を代表させる役割を与える表現である。A camel is a friendly animal.(ラクダは人なつこい動物です。)というように、主語の位置で用いられることが多い。目的語の位置だとI like camels.(私はラクダが好きです。)のように〈無冠詞+複数形〉にするのがふつうである。

例文3は、やや固い表現で、教科書での説明文などで使われる。

3-1-2: 〈不可算名詞〉の基本的用法

〈不可算名詞〉の語法を整理しておく:

  1. 〈複数形〉にできない:[正]information(情報) [誤]informations
  2. 〈不定冠詞〉に後続できない:[正]chalk(チョーク) [誤]a chalk
  3. 〈数詞〉で直接修飾できない:[正]two pieces of furniture(家具2点) [誤]two funitures
  4. 量の多少を表す語で修飾できる:[正]much money(大金) [誤]many money

3-2: 学校英語の5分類

たびたび述べてきたように、学校英語では伝統的に、〈名詞〉を5つに分類してきた。ここでは「学校英語」を、現時点で日本の高校生にもっとも使われている『Forest』(第7版)に代表させておこう。

名詞はその性質から次の5つに分けることができる。

数えられる名詞[C]……普通名詞、集合名詞

数えられない名詞[U]……物質名詞、抽象名詞、固有名詞

[C]普通名詞:同じ種類のものに共通して用いることができる名詞

table, chair, house, book, pencilなど

[C]集合名詞:人や物の集合体を表す名詞

family, class, team, peopleなど

[U]物質名詞:一定の形のない物質を表す名詞

coffee, tea, sugar, milk, gold, airなど

[U]抽象名詞:具体的な形のない抽象的なことを表す名詞

happiness, love, peace, joyなど

[U]固有名詞:人名や地名など、特定のものを表す名詞

London, Tokyo Dome, John, Januaryなど

(『Forest』[458])

誤謬が2点。第1。この分類は〈名詞〉の「性質から」分けたものではない。〈名詞〉の「意味から」分けたものに過ぎない。我々がここまでに見てきたように、その〈名詞〉が〈固有名詞なのか一般名詞なのか〉という、個物に対する「態度の違い」と、〈可算名詞なのか不可算名詞なのか〉という、「単位性の違い」が、その名詞を文の中で働かせる(意味を成し遂げさせる)ために留意しなければならない「〈名詞〉の性質」だった。ここに、『実践ロイヤル』がやったように、〈具象か抽象か〉という「意味の違い」を導入することで、ようやく学校英語の5分類は成立しうる(さらに〈個体と集合〉という「意味の違い」も必要である)。〈物質的〉(material)か〈抽象的〉(abstract)かという違いは、その〈名詞〉の働きが成し遂げられた後で事後的に評価した結果である。逆にいうなら、〈名詞〉をこのように分類できるとき、我々はすでにその〈名詞〉の意味を知ってしまっているのだ。

第2。この分類は意味的な分類であるため、〈単位性〉は関係がない。したがって〈可算・不可算〉の区別を、ここに簡単に導入できると考えるのは誤っている。「〈抽象名詞〉は〈不可算名詞〉だが、例外的に〈普通名詞〉として使うことがある」のではない。そもそも〈抽象名詞〉と分類することに、〈可算か不可算か〉という関心(interest)は関与していない(indifferent = disinterest)のである。

「この分類は誤っている」だとか「こういう分類は行わないべきだ」といいたいのではない。異なる分類基準どうしを、無理に合成しようとする行為は、越権行為であり、誤謬であって、この意識なしに5分類を使っても、いらぬ混乱の元でしかない、といいたいのだ。

3-2-1: 〈名詞〉の用法

今述べた点に留意しながら、学校英語の5分類にしたがって、〈名詞〉の注意点を見ていこう。

  1. 普通名詞(common nouns)
  2. 集合名詞(collective nouns)
  3. 物質名詞(material nouns)
  4. 抽象名詞(abstract nouns)
  5. 固有名詞(proper nouns)

それぞれ節をたてて、次節から見ていく。