第10節 〈名詞〉の数
英語の〈名詞〉には、1つの物・事・人を表す〈単数〉と、2つ以上の物・事・人を表す〈複数〉がある。この点は、大きく日本語と異なる点だから、注意を要する。
英語を用いて話したり、考えたりするプロセスにおいて、まずその対象が〈可算〉であるか〈不可算〉であるかが大きな問題となる(→3-1-1)。〈不可算〉の対象について語ろうとするとき、話者は"uh, uh, uh... chicken!"(エート、エート、エート、鶏肉!)と考え、〈可算〉でかつ1つの対象について語ろうとするとき、話者は"a, a, a... a hamburger!"(アノ、アノ、アノ、ハンバーガー!)と考える。
〈複数〉の対象について考えるとき、いまの2つの思考プロセスのどちらをたどるのかといえば、当然ながら〈可算〉の思考プロセスをたどる。〈可算〉でなければそもそも〈複数〉にならないのだから。
ただし、1つのものについて考えるときのように、〈不定冠詞〉(a)をまず口に出して意味的カテゴリーを規定するのではなく、〈数詞〉(two, three, four...)や〈冠詞相当語〉や〈限定詞〉(many, a fewなど)を口に出して考える。だから、英語でものを考えるということは、〈不可算〉か、〈可算〉で1つか、〈可算〉で〈複数〉かということが、まずその対象となる〈名詞〉を思い出す前に脳裏に浮かぶということになる(同時に、文脈上〈不特定〉なのか〈特定〉なのかということも考慮されるが、これについては〈冠詞〉の節で詳しく見ることにする)。
10-1: 〈単数〉と〈複数〉の使い分け
〈名詞〉の数について考えるということは、〈可算名詞〉について考えるということだ。
〈単数〉と〈複数〉のどちらを使うべきか、という点で迷うことがあるとすれば、疑問か否定の文においてである(肯定文では数はすでにわかっているのだから)。これに〈数詞〉の問題も加えて考えてみよう。
10-1-1: 疑問
〈可算名詞〉を使って「~がありますか?」と聞くようなばあい、「あるとすれば、1つしかない」とわかっているばあいは〈単数形〉を使い、「あるとしても、いくつあるかわからない」ばあいや「いくつもある」とわかっているばあいは〈複数形〉を使う。
- Are there any mikes on the stage?(ステージにはマイクがありますか?)
- Is there a mike on the stage?(ステージにはマイクがありますか?)
10-1-2: 否定
〈可算名詞〉をnoを使って修飾して、「~がない」というばあい、一般的には〈複数形〉にするが、1つしかないのが自然であるばあいは〈単数形〉にする。
- This hotel has no rooms on the first floor.(このホテルの1階には客室がない。)
- My father has no room of his own.(私の父には自分の部屋がない。)
また、0(zero)で修飾する名詞もふつうは〈複数形〉にする。
- Water freezes at zero degrees Celsius.(水は摂氏0度で凍る。)
10-1-3: 小数点以下
〈数詞〉は〈名詞〉としても機能するし、〈形容詞〉としても機能する。
そこで問題は、主語が小数点以下を持つ〈数詞〉であるとき、もしくは小数点以下をもつ〈数詞〉が修飾する〈名詞〉であるとき、この主語は〈単数〉なのか〈複数〉なのか、ということになる。
まず、1よりも大きい数は、〈複数〉になる。これは1.1であろうが1.001であろうが、1よりも大きいならばつねにそうである。
つぎに、0よりも大きいが1よりも小さいならばどうか。これに関しては意見が分かれるところである。『ロイヤル英文法』と『実践ロイヤル』の説明の違いを見よう:
Q&A 21 0.7 meterか0.7 metersか?
単数形がふつうだがどちらも用いられている。小数を含む数に続く単位名は、2以下でも1以上であれば複数形になる。
A mile is equal to 1.6 kilometers.
(1マイルは1.6キロメートルです)
1以下の場合は原則として単数形。まれに複数形になっていることもある。
A yard is equal to approximately 0.91 meter[meters].
(1ヤードは約0.91メートルです)(『ロイヤル英文法』[98])
1以上の場合は、1.01でも複数形。1以下の小数の場合は、一般には複数形を用いて、0.6 inchesのようにいうが、論文・雑誌その他では、編集方針によるが、ほとんど半々である。そこで「可算名詞で単数形をとるのは1だけ」と覚えておくのも実用的である。(『実践ロイヤル』[345])
どちらも「1以上」(「1より大きい」の誤りであろう)ならば〈複数扱い〉という点は共通しているが、1未満の扱いに差異がある。
『ロイヤル英文法』では「原則として単数形」としているのに対し、『実践ロイヤル』では「一般には複数形」としている。このような違いは、ここで我々が行っているような「文法作り」にあたって参照しているコーパス(言語資料)の偏りによって生じる。現実的な対処法としては、『実践ロイヤル』が提案するように、「1以外なら複数」として扱っておくのが無難だろう。
10-2: 規則複数
10-2-1: 規則的な〈複数形〉の作り方
10-2-1-1: 〈単数形〉の語尾に-sをつける
- book→books, game→games, day→days
-sの発音は、無声音の次なら[s]、有声音・母音の次なら[z]になるなど、いくつか法則はある。また、-thで終わる語に-sがつくと-thも含めた音変化が生じるなど(mouth[θ]→mouths[ðz]など)、複雑な法則がある。
センター試験の発音問題などで問われる点ではあるが、法則を覚えるよりも、辞書をひいたときに〈複数形〉の発音も同時にメモしておくなどして(もちろん声に出して読まなければならない)、単語ごとに発音を身体になじませるべきだろう。頭で覚えた法則はすぐ忘れるが、身体化された法則は応用がきくからだ。
10-2-1-2: 語尾の発音が[s][z][ʃ][ʒ][tʃ][dʒ]で終わる〈名詞〉には-esをつける
- bus→buses, lens→lenses, dish→dishes, watch→watches
ただし、語尾が発音しない-eで終わっているならば、-sのみをつける:
10-2-1-3: 子音字+yで終わる〈名詞〉はyをiに変えて-esをつける
注意(試験に出る):母音字+yで終わる語にはそのまま-sをつける:
- boy→boys, monkey→monkeys, chimney(煙突)→chimneys
10-2-1-4: -oで終わる〈名詞〉
10-2-1-4-1: 子音字+oで終わる〈名詞〉:-sをつけるものと-esをつけるものがある
10-2-1-4-1-1: 伝統的に-esをつける語
- hero→heroes, echo→echoes, potato→potatoes, tomato→tomatoes
10-2-1-4-1-2: 省略・短縮された語は -s をつける
- piano(<pianoforte)→pianos, photo(<photograph)→photos, kilo(<kilogram, kilometer)→kilos, auto(<automobile)→ autos
10-2-1-4-1-3:その他-sをつける語
- solo→solos, torso(トルソー)→ torsos, ghetto(ゲットー)→ghettos
10-2-1-4-2: 母音字+oで終わる名詞: -s をつける
- bamboo(竹)→bamboos, duo→duos, kangaroo→kangaroos, radio→radios, trio→trios
10-2-1-5: -f,-feで終わる〈名詞〉
10-2-1-5-1: 原則として-f,-feを-vesに変える
- half→halves, knife→kinives, leaf→leaves, life→lives
10-2-1-5-2: そのまま-sをつけるもの
- roof→roofs, belief(信念)→beliefs, chief(上司)→chiefs, cliff(崖)→cliffs, cuff(袖口)→cuffs, gulf(湾)→gulfs, grief(悲しみ)→griefs, proof(証拠)→proofs, relief(浮き彫り)→reliefs, safe(金庫)→safes
10-2-1-5-3: 両方の形があるもの
- scarf→scarfs/scarves, hoof(ひづめ)→hoofs/hooves, dwarf(小びと)→dwarfs/dwarves
10-3: 不規則複数
10-3-1: 母音が変化するもの
- man→men, woman→women[wimin], louse(シラミ)→lise, mouse→mice, foot→feet, tooth→teeth
10-3-2: -en,-renがつくもの
- ox(雄牛)→oxen, child→children
10-4: 〈単複同形〉
- aircraft(航空機)→aircraft, Chinese(中国人)→Chinese, corps[kɔːr](団)→corps[kɔːrz], craft(船舶)→craft, deer(シカ)→deer, Japanese(日本人)→Japanese, means(手段)→means, percent→percent, series→series, sheep→sheep, species(種)→species, Swiss(スイス人)→Swiss, yen→yen
注意すべき〈単複同形〉として:
- dozen(ダース), hundred, thousand, million
などの〈数詞〉の桁数を表す語。これらは、
- five dozen of eggs(卵5ダース)
- one million three hundred twenty-nine thousand nine hundred ninty-nine(1,329,999)
のように〈数詞〉など(some, severalなど)でその単位が〈複数〉あることを表現するときは-sをつけないが、
- dozens of people(何ダースもの人=何十もの人)
- hundreds of people(何百もの人)
などの表現では-sをつける。
10-5: 外来語の〈複数形〉
10-5-1: ラテン語系
10-5-1-1: -usで終わる語
10-5-1-1-1: -us[əs]→-i[ai]
- stimulus(刺激)→stimuli, alumnus(男子卒業生)→ alumni
10-5-1-1-2: -esをつけるもの
- apparatus(装置)→ apparatuses, bonus→bonuses, status(地位)→statuses
10-5-1-1-3: -us→-iの変化と-esをつける両方あるもの
- focus(焦点)→foci[fousai]/focuses, radius(半径)→radii[reidiai]/radiuses
10-5-1-2: -aで終わる語
10-5-1-2-1: -a[ə]→-ae[iː]
- larva(幼虫)→larvae, alumna(女子卒業生)→ alumnae
10-5-1-2-2: -s をつけるもの
- area(地域)→areas, drama(ドラマ)→dramas, era(時代)→ eras
10-5-1-2-3: -a→-aeの変化と-sをつける両方あるもの
- antenna(アンテナ、触角)→antennae(触角)/antennas(アンテナ), formula(公式)→formulae/formulas
10-5-1-3: -umで終わる語
10-5-1-3-1: -um[əm]→-a[ə]
- bacterium(バクテリア)→bacteria, datum(データ)→data, erratum(誤植)→errata(正誤表)
10-5-1-3-2: -sをつけるもの
- album→albums, museum→museums, forum(討議会)→forums, stadium(スタジアム)→ stadiums
10-5-1-3-3: -um→-aの変化と-sをつける両方あるもの
- curriculum(教育課程)→curricula/curriculums, mudium(媒介物)→media/mediums, memorandum(メモ)→memoranda/memorandums
10-5-1-4: -ex,-ixで終わる語
10-5-1-4-1: -ex[eks],-ix[iks]→-ices[isiːz]
10-5-1-4-2: -ex[eks],-ix→-icesの変化と-esをつける両方あるもの
- index(指標)→indices/indexes, appendix(付録)→appendices/appendixes
10-5-2: ギリシャ語系
10-5-2-1: -is[is]で終わる語:語尾が-es[iːz]に変化
- analysis(分析)→analyses, axis(軸)→ axes, basis(理論的基礎)→bases, crisis(危機)→crises
10-5-2-2: -onで終わる語
10-5-2-2-1: -on[ən]→-a[ə]
- criterion(判断基準)→criteria, phenomenon(現象)→phenomena
10-5-2-2-2: -sをつけるもの
- electron(電子)→electrons, neutron(中性子)→neutrons, proton(陽子)→protons
10-5-2-2-3: -on→-aの変化と-sをつける両方あるもの
- automaton(自動装置)→automata/automatons
10-5-3: フランス語系
- plateau(高原)→ plateaux/plateaus
10-5-4: イタリア語系
10-6: 文字・記号などの〈複数形〉
一般に-'sをつけるが、〈'〉はないばあいもある。
- Dot your i's and cross your t's.(iには点を打ち、tには横棒をつけなさい。=最後の仕上げに細心の注意を払いなさい。)
- Your 3's look like 8's.(君の書く3は8に見える。)
- He became famous at the beginning of the 1970's[1970s].(彼は1970年代のはじめに有名になった。)
10-7: 〈複合名詞〉の〈複数形〉
実際に〈複数〉になる〈名詞〉を〈複数形〉にする。〈名詞〉がないばあいは(grown-upなど)全体を1語とする。
10-7-1: 最後の要素を〈複数〉にするもの
- pen-friend→pen-friends, girl friend→girl friends, grown-up(大人)→grown-ups
10-7-2: 最初の要素を〈複数形〉にするもの
- passer-by(通行人)→passers-by, looker-on(見物人)→ lookers-on
10-8: 〈複数形〉の特別用法
10-8-1: つねに〈複数形〉の〈名詞〉
10-8-1-1: 2つの部分からなる道具や衣類
- glasses(眼鏡), scissors(はさみ), pants, trousers(ズボン), contact lenses, shoes, gloves(手袋), socks(靴下)
※shoe, glove, sockなど2つに分かれるものの片方だけを指すときには〈単数形〉になる。
10-8-1-2: 学問・学科名
-icsで終わる語は〈単数扱い〉。
- Linguistics is the science of language.(言語学は言葉の科学である。)
- economics(経済学), electronics(電子工学), linguistics(言語学), mathematics(数学), physics(物理学), politics(政治学), statistics(統計学)
10-8-1-3: その他注意すべき語
10-8-1-3-1: 〈複数扱い〉の語
- arms(武器), clothes(着物), goods(品物), manners(行儀作法), means(財産), stairs(階段)
10-8-1-3-2: 〈単数扱い〉の語
10-8-1-3-3: 〈単数扱い〉と〈複数扱い〉の両方あるもの
- amends(償い), barracks(兵舎), headquarters(本部), means(手段), customs(関税、税関)
10-8-2: 〈単数形〉と〈複数形〉で異なる意味をもつ〈名詞〉
10-8-2-1: 〈単数形〉の意味で〈複数形〉のばあいにも使うもの
- arm/arms(腕/武器), ash/ashes(灰/遺骨), color/colors(色/軍旗), custom/customs(習慣/税関), day/days(日/時代), effect/effects(効果/動産), letter/letters(文字/文学), manner/manners(方法/作法), quarter/quarters(4分の1/地域), spectacle/spectacles(光景/眼鏡), term/terms(期間・用語/間柄)
例文:
- She is on good terms with him.(彼女は彼と仲がいい。)
10-8-2-2: 元の語が〈不可算名詞〉のため、〈単数形〉の意味で〈複数形〉では使わないもの
- advice/advices(助言/通知), air/airs(空気/気取り), regard/regards(尊敬/よろしくというあいさつ), force/forces(力/軍隊), glass/glasses(ガラス/眼鏡), good/goods(善/商品), pain/pains(苦痛/骨折り), ruin/ruins(破滅/遺跡), sand/sands(砂/砂浜、砂漠), spirit/spirits(精神/気分), work/works(仕事/工場)
例文:
- Give my best regards to your parents.(ご両親にくれぐれもよろしくお伝え下さい。)
- = Say hello to your parents.
- He did not take great pains.(彼はあまり努力しなかった。)※take pains(骨を折る/努力する)
- He was in high spirits.(彼は元気いっぱいだった。)
- = He was in good spitits.
- ←→He was in bad spirits.
- = He was in low spirits.
- = He was out of spirits.
10-8-3: 〈相互複数〉
相手がいたり、同種のものの交換などのばあい、〈複数形〉を使うばあいがある。試験で問われやすい。
- No one shook hands with the same person twice.(誰も同じ相手と2回握手をすることはなかった。)
- She made friends with the little girl.(彼女はその少女と仲良くなった。)
- He changed trains at Sendai.(彼は仙台で列車を乗り換えた。)
- Would you mind changing seats with me?(席を替わっていただけませんか?)
- We took turns in driving the car.(我々は交代で運転した。)
10-8-4: 〈数詞+名詞〉
10-8-4-1: お金・時間・距離のまとまり:〈単数扱い〉
〈複数形〉であっても1つのまとまりとみなされ、〈単数扱い〉される。試験で問われやすい。
- One hundred dollars is enough to buy that sweater.(100ドルあればそのセーターを買うのに十分だ。)
- Twinty miles is a long distance to run.(20マイルは走るには長い距離だ。)
- Ten years is called a "decade."(10年は"decade"と呼ばれる。)