高校生のための英文法:名詞と冠詞

第4節 〈普通名詞〉 common nounsの用法

〈普通名詞〉とは、『実践ロイヤル』の「体系的分類」にしたがえば、〈可算名詞〉で〈具象〉のうち、〈個体〉を指すことになる。表をもう一度掲載するが、このうち(A)が〈普通名詞〉に該当する。

区別1 区別2 区別3 区別4 名詞の例
共通名詞 可算 具象 個体(普通名詞) dog (A)
集合(集合名詞) family (B)
抽象(抽象名詞) difficulty (C)
不可算 具象(物質名詞) cheese (D)
抽象(抽象名詞) peace (E)
固有名詞 Japan (F)

(※『実践ロイヤル』[330-1]の体系的分類)

ここで〈具象〉ということでどういうことをいわんとしているのかが、やや曖昧である。animal(動物)に対して、dog(犬)は明らかに、個々の、他と区切られた、形をもつ、数えられるものであるという「感じ」がする。その意味では、dogやcatやlionなどの様々な〈名詞〉(が指すもの)を抽象化したのがanimalである、といえる。しかしanimalも〈普通名詞〉である。There are only three animals in the zoo.(その動物園には3頭しか動物がいない。)などと述べることができる。さらにいえば、dogじたい、golden retriever(ゴールデンレトリーバ)やchihuahua(チワワ)などの様々な〈名詞〉(が指すもの)を抽象化したものである。

おおよその文法教科書での共通見解としては、〈可算〉であること、すなわち〈単位性〉が〈普通名詞〉の特徴ということになりそうだ。これは、おおよその文法教科書が、「〈抽象名詞〉を〈可算名詞〉として使うときには、その〈名詞〉は〈普通名詞〉として使われている」というエクスキューズ(excuse)を行っていることからも明らかだ。

〈単位性〉が問題だから、触ったり見たりできるかどうかは関係がなく、day、week、yearなどの「はじめと終わりがはっきりと区切られている」〈単位〉も〈普通名詞〉である。

残るは〈集合名詞〉との区別であるが、おおよその文法教科書では、「〈普通名詞〉が個々のものを指すのに対して、〈集合名詞〉はいくつかが集まってつくる集合体を指す」と説明している。たしかにfamilyやpeopleは、「集合体」という「感じ」はするが、じつは私には、この説明を理解することができない。集合体という「感じがする」だけだからだ。現時点で、私には、〈普通名詞〉と〈集合名詞〉を区別する方法は、「集合体という感じ」に頼る以外にない、と思える。

さて、〈普通名詞〉は、すべて〈可算名詞〉の特徴を持っている。したがって「〈可算名詞〉の基本的用法」で説明したことがそのまま当てはまる(3-1-1「〈可算名詞〉の基本的用法」参照)。繰り返しになるが、単語によって、5分類のうちのいずれかに分類されるというのではなく、使用されるときの「意味」によって分類されるというだけである。

  • Do you have a light by your bed?(枕元に明かりを置いていますか?)

というとき、a light(明かり、ライト)は〈可算名詞〉の〈普通名詞〉だが、light(光)という意味なら〈不可算名詞〉の〈物質名詞〉である。

  • Light travels fater than sound.(光は音より速い。)

また、

  • She has no heart at all.(彼女には情というものがまったくない。)

というとき、この「情け、心」という意味のheartは、元々は〈不可算名詞〉の〈抽象名詞〉なのだが、have a heartで「情け深い」という意味になり〈可算名詞〉の〈抽象名詞〉として使われている。もしheartを「心臓」という意味で使うなら〈可算名詞〉の〈普通名詞〉ともとれる(「彼女には心臓がないんだ。」という映画のセリフも考えられる)。

これは一見ややこしく、おおよその文法教科書では「普通名詞の抽象名詞化」だとか「名詞の転用」などと説明されるが、たんに(すべての〈名詞〉がそうであるように)多義的であるというだけである。この種の「転用」(と教科書が述べる事象)については、項を改めて整理するが、学習上重要なのは〈可算・不可算〉の区別だけであって、じっさい学習用英和辞典をひいても、[C]と[U]の区別は必ず掲載されているが、〈普通名詞〉だとか〈物質名詞〉だとかいった分類は行われていない。

もうひとつ、「普通名詞の転用」として引き合いに出される例文として:

  • The pen is mightier than the sword.(ペンは剣よりも強し。)

ということわざがある。ここでは、penやswordが具象物のペンや剣を意味しているのではなく、抽象的な概念(言論と武力)を意味していることが明らかである。「〈普通名詞〉の〈抽象名詞〉への転用」として説明されることが多いが、ことばの持つ比喩(analogy)の性質をそのまま理解しなければ、そもそもこの文は意義を持たないのであって、そのような説明は蛇足であるように思われる。