すでに述べたように、〈集合名詞〉は「集合体という感じがする」〈名詞〉のことである。ただし、〈普通名詞〉がたんに〈数詞〉や〈冠詞〉あるいは〈冠詞相当語〉によって「数」を表現できたのに対し、〈集合名詞〉にかんしては、「数」の扱いが非常にややこしい。学習上は、「数の扱いがややこしいか否かが、〈集合名詞〉と〈普通名詞〉の違いである」とさしあたり考えておいてもよいぐらいである。
まず、〈可算名詞の集合名詞〉のうち、〈単数にも複数にも扱う集合名詞〉を見よう。これをfamilyタイプと称することがある。
これはfamily(家族)のように、集合体をひとつのまとまりとして〈単数扱い〉するばあいと、そのメンバーに着目して〈複数扱い〉するばあいとがあるものだ。
1つめの例文は、「彼の家族」という「ひとつのまとまり」として主語を扱っているため、三人称単数現在のisが使われている。〈単数扱い〉ということばは、この意味で使われる。さらにいうなら、この文の主語を受ける代名詞はitになる。
2つめの例文は、ひとつふたつと数えられる「家族(のまとまり)」が、40ほど存在している事態を述べたものであり(つまり〈可算名詞〉)、〈複数〉あるのだから三人称複数現在のareが使われている。これも〈単数扱い〉である。このように〈単数扱いの集合名詞〉は、〈普通名詞〉と同様に〈複数形〉で用いることができる。
ここが誤解の多い点なのだが、〈複数形〉になっていることは、いわゆる「〈集合名詞〉の複数扱い」という事態のことではない。むしろ逆に、〈単位性〉すなわち数えられるという性質をそなえていることは、〈単数扱い〉ということと、ほとんど同義である、
〈複数扱い〉という事態がどのようなことなのか、例文を見よう:
ここでは、家族の個々のメンバーがフォーカスされているため、三人称複数現在のhaveが使われている。これが〈複数扱い〉ということである。ゆえにこの例文の主語はtheyで受けられる。
ただし、これもまた学習者を混乱させることなのだが、イギリス英語では〈複数扱い〉がふつうであるfamilyタイプの〈集合名詞〉も、アメリカ英語では(〈単数形〉ならば)〈単数扱い〉がふつうである。したがって、上の例文ではMy family has all gone...となる。また、近年ではイギリスでも〈単数扱い〉する傾向が増えてきた。ニュアンスとしては、〈複数扱い〉は「イギリス風の気取った言い回し」であり、こうした伝統的な言い方を好まない傾向は、若い世代ほど顕著である。これは逆にいえば、アメリカ人だから必ず〈単数扱い〉するということではない、ということでもある。なお、『実践ロイヤル』によれば、日本人がどちらの「扱い」を使用しても、気取っている印象を与えることはないそうだ。
もうひとつ、familyタイプの名詞としてstaffを見てみよう。
例文の1つめと2つめは、イギリス英語とアメリカ英語の違いを明確に示している。例文1がイギリス英語で例文2がアメリカ英語だ。
staffは〈集合名詞〉であって、集合体を表している。だから[誤]I'm a staff.と述べることはできない。こういったら"a staff...what?"「スタッフの何?」と聞き返されるだろう。a staff memberで「スタッフの一員」という意味になるが、ここでstaffは形容詞的に働いている(a memberのmemberを修飾している)。
スタッフのメンバーであることを述べる典型的な表現が、例文の3つめと4つめである。
〈単数にも複数にも扱う集合名詞〉の代表的な単語のうち、高校生が覚えておくべきものを列挙しておこう:
次に〈可算名詞〉のうち、〈つねに複数扱いをする集合名詞〉を見よう。これをpoliceタイプと称することがある。
これはfamilyタイプのように、英米差といった例外がないため、そのまま覚えればよい。なお、〈複数形〉にならないため、純然たる〈可算名詞〉ではないとしている文法教科書もあるし、英和辞典でも〈不可算名詞〉と明記しているものが多い。
1つめの例文は、典型的な〈複数扱いの集合名詞〉の使用法で、三人称複数現在のareが使われている。このばあいのpoliceは警官たち(police officers)の集合としての「警察」という意味であり、「警察組織」を意味している。一般的な英和辞典も[通例the~]と書いているように、〈定冠詞〉とともに用いることで、集合体全体または特定のものを意味することになる。ふつう、警察組織は官僚型の組織であるため(内実はそうではないかもしれないが)、今ここで泥棒を追いかけているのが特定の県警だとしても、この泥棒が別の県に移動しても警察組織の中で連携をとり、相変わらず「同じ」警察組織が追っていることになり、「警察がその泥棒を追っている」という事態は継続することになる。もしも追いかけているのがある1人の警官であるとしたら、a police officerを主語にすべきということになる。
2つめの例文は、通例とは異なるが、ありうる表現である。主に新聞記事などで使われる表現だ。〈複数扱い〉であるため三人称複数現在のhaveが動詞になっている。
3つめの例文は、「5人の警官(警察)」を意味している。「5つの警察組織」ではない。テレビドラマなどではよく現場の指揮権をめぐって、複数の警察関連組織がいがみあっている場面があるし、とくにアメリカの警察組織はミステリ小説の翻訳家が苦労するように複雑であるが、そのばあいでも「警察内部での分断」でしかないはずで、警察が複数あるわけではない。
もうひとつ、policeタイプの、つまり〈つねに複数扱いをする集合名詞〉として重要な単語にpeopleがある。
peopleは典型的な〈多義語〉である。ここで〈つねに複数扱いをする集合名詞〉であるのは「人々」「世間の人々」という意味のときのpeopleである。
1つめの例文は、policeの例文の2つめと同様。この意味のpeopleについて、英和辞典はpoliceとは違い[通例the~]とは書いていない。
2つめの例文は、policeの例文の3つめと同様。このように〈つねに複数扱いをする集合名詞〉は、〈数詞〉で直接修飾することができる。この点についてfamilyタイプとの違いを考えてみよう。seven familiesとしたなら、「7家族」である。「7人家族」ではない。「うちは7人家族です」としたいなら、We are a family of seven.とかThere are seven people in my family.などとしなければならない。また、peopleはmany peopleとすることもできる点で、〈不可算名詞〉とは異なっている。
3つめの例文は、People say that...で「~だそうだ」という意味。伝聞の形になるため、日本語で自然に訳すとすると、peopleを訳出せずに「~といわれている」となるだろう。
4つめと5つめの例文は、peopleの注意事項だ。peopleには「国民」「民族」などの意味もある。peoplesと複数形にしたならば、「諸国民」という意味になる。この意味では〈可算名詞〉になるため、5つめの例文のようにひとつの国民を意味したいのであれば、〈不定冠詞〉が先行している必要がある。
〈つねに複数扱いをする集合名詞〉の代表的な単語のうち、高校生が覚えておくべきものは次の3つ:
〈集合名詞〉のうちで、生物の集合体でない、事物の集合体を表すものの多くは、〈不可算名詞〉である。文法教科書の一部は「物質名詞扱い」と説明している(『ロイヤル英文法』)。しかし、我々がやってきたように、たんに〈一般名詞〉で〈不可算名詞〉であると考えたほうが理解はスムーズであろう。
日本人の英語学習にとって、〈不可算名詞〉の理解がひとつのネックになるだろうと思う。日本語の語感として「数えられない」感じがしないものが多いからだ。試験でも頻出の範囲である。高校生レベルで覚えておくべき〈不可算名詞である集合名詞〉を列挙しておこう:
ここでは「〈不可算名詞〉の基本的用法」で述べた特徴がそのままあてはまる。つまり:
ここにあげた多くの〈不可算名詞〉は、数えるならばa piece of(two pieces of)のように〈単位〉を〈複数形〉にして数えることができるが、その集合を構成する〈可算名詞〉であるメンバーがわかっているばあい、具体的に述べてもよい。たとえば以下の例文はいずれも正しい:
高校生・大学受験生にとって気になるのが、「試験ではどこが問われるのか」という点だと思う。これは「日本人の英語学習者にとってひっかかりやすい(躓きやすい)ポイントはどこか」と言い換えてもいい。高校生がおさえておくべき、注意すべき〈集合名詞〉は、fruit, fish, food, hairあたりだろう(ついでにfeedもこれに加えることにする)。ひとつひとつ見てこう。
〈集合名詞〉について学習していると、おそらく英和辞典で「[U]種類には[C]」という謎の表現に出くわすだろう。基本的には[U](不可算名詞)だが、「種類には」[C](可算名詞)だという。この「種類には」とはどういう意味だろう。
まず「果物」という意味のfruitは〈不可算〉である。だから次の言い方が成り立つ:
「たくさんの果物」だからといって[誤]many fruitsといってはならない。次は種類を述べている文:
ここでは、旬なのは「果物の実のうちのどれか」を聞いているのではなく、「どの種類の果物か」を聞いている。「種類には」とはこういう事態のことである(「果物の実のうちどれ」を聞きたいのであれば、具体的に果物の名前で聞くべきだろう)。また、
のように「成果」という意味では〈可算〉である点にも注意。
次にfish。「魚」という意味のfishは〈可算名詞〉であり(これだけ〈不可算〉ではないので注意)〈単複同形〉である。だから次の言い方はいずれも正しい:
さらに「種類をいうときにはfishesになることがある」という法則もある。だから次の言い方もいずれも正しい:
ただし、種類についていうときには
のようにいうのがふつう。
また、「魚肉」の意味でのfishは〈不可算〉である(原材料の〈物質名詞〉)。
「食物、食料」という意味のfoodは〈不可算〉である。だから次の言い方が成り立つ:
〈不可算〉だから[誤]Japanese foodsといってはならない。日本食にもいろいろなものがあるが、それらをまとめて(集合体として)Japanese foodといっているのだ。ところが「(とある種類の)食品」という意味になると〈可算〉になる:
このばあい、「集合体としての食品」というひとまとまり(種類)が複数(スパゲティや肉料理や魚料理や洋菓子や……)、念頭に置かれており、その中からspaghettiという種類を取り出して述べていることになる。
先に、ついでにfeed(えさ、飼料)という単語も見ると述べた(これは〈動詞〉でもあり、〈他動詞〉なら「~にえさをやる、~に授乳する」、〈自動詞〉なら「えさを食う、お乳を飲む」)。feedは「えさ」の意味なら〈不可算〉なので、foodと同様である。「1回分の飼料、赤ん坊の食事」という意味なら〈可算〉である。なお、犬や猫のようなペットのえさはdog food, cat foodのようにいい、家畜のえさはchicken feed, cattle feedのようにいう。
最後にhair。「頭髪」の意味なら〈不可算名詞〉である。
ところが「毛」(つまり1本1本をいうとき)のhairは〈普通名詞〉で(ということは当然〈可算〉)〈複数形〉はhairsになる。
次の〈物質名詞〉へのブリッジ(bridge)として、〈集合名詞〉のひとつとしてあげたclothing(衣類)の注意点も見ておこう。
clothingは「衣類、衣料品」という意味の〈集合名詞〉で〈不可算名詞〉である。
同じく〈不可算名詞〉のclothesも「衣服」という意味だ。
clothingが「身にまとうもの全体」を指していて、大量に生産・販売される「衣料品」をいうときに使われるのに対して、clothesは「いくつかのアイテムで構成された衣服」を指している。衣料品店やアパレルメーカーやファッション業界ではclothingを、日常の文脈ではclothesを使うことが多い。
また「布」の意味のclothは〈物質名詞〉だが、「テーブルクロス」の意味なら〈普通名詞〉だ。clotheは〈他動詞〉で「~に着させる」という意味である。