第8節 〈固有名詞〉 proper nounsの用法
〈固有名詞〉は、特定の人や事物に付けられた名のことである(→2-1-1「〈固有名詞〉と〈一般名詞〉」)。学校英語的な定義をするなら、大文字で書き始め、原則として〈不定冠詞〉との結びつきはなく、〈複数形〉にもしない。〈定冠詞〉との結びつきはあるものとないものとがある。
ここまで読んできた読者ならすでに知っている通り、「原則として」という但し書きが付くばあい、その「例外」が試験では問われやすい。とはいえ、基本的な用法は、やはりそれはそれで問題にされる。
8-1: 〈定冠詞〉と〈固有名詞〉
〈固有名詞〉に先行して〈定冠詞〉=theを述べるのか否かは、慣習的なものが多く、厳密なルールはない。一般的に・経験的に「こういうケースが多い」ということはあるため、あるていどは覚えておいたほうがよい。
8-1-1: 〈定冠詞〉との結びつきがない〈固有名詞〉
8-1-1-1: 人名・天体名・国名・大陸・州・都市名など
- Robinson(ロビンソン), Mars(火星), Japan(日本), Eurasia(ユーラシア大陸), Europe(ヨーロッパ), California(カリフォルニア州), Michigan(ミシガン州), Tokyo(東京), Niigata Prefecture(新潟県)
〈固有名詞〉は同種の他のものと区別するためにそれぞれに付けられた名前である。「太陽」「月」「地球」「空」「海」などは、もともとは「常識的に考えてこの世にただ1つのもの」だった。古代エジプトでは「北上する」ことを「ナイルを下る」といい、「南下する」ことを「ナイルを上る」といった。古代エジプト人にとって、ナイルこそは世界の中心であり、そもそも他の川などなかったのだから、区別する必要もなかった。だから、メソポタミアの北から南へ流れる川(ティグリス・ユーフラテス川)を説明するのに、「ナイルを上る方向へ下るナイル(=川)がある」などとややこしい説明をした。同様に、「太陽」「月」「地球」「空」「海」などは〈固有名詞〉を使って他と区別する必要はなく、その代わりに〈定冠詞〉を用いてthe sun, the earth, the sky, the seaなどと示すことになっていた。もし地球を火星などと同列に、惑星のひとつとして述べるばあいは、Earthと〈固有名詞〉にしてよい。
8-1-1-2: 山・湖・島・岬
- Mt. Asama(浅間山), Mount Fuji(富士山), Lake Biwa(琵琶湖), Sado Island(佐渡島), Cape Horn(ホーン岬)
8-1-1-3: 建物や施設(例外が多い)
- Hyde Park(ハイドパーク), Hibiya Park(日比谷公園), Times Square(タイムズスクエア), Grand Central Station(グランド・セントラルステーション), Ueno Station(上野駅), London Bridge(ロンドン・ブリッジ), Westminster Abbey(ウェストミンスター寺院)
8-1-2: 〈定冠詞〉との結び付きがある〈固有名詞〉
8-1-2-1: もともと〈複数形〉、あるいは集合体の国家
- the Alps(アルプス山脈), the Rockies(ロッキー山脈), the Himalayas(ヒマラヤ山脈), the West Indies(西インド諸島), the Philippines(フィリピン共和国), the United States(アメリカ合衆国), the Netherlands(オランダ), the United Kingdom(イギリス)
8-1-2-2: 〈A of B〉の形
- the Gulf of Mexico(メキシコ湾), the Bank of Scotland(スコットランド銀行), the District of Columbia(コロンビア特別区), the University of Tokyo(東京大学)
8-1-2-3: 〈固有名詞+普通名詞〉あるいは〈普通名詞〉が省略されている
8-1-2-3-1: (a)海・川・運河
- the Pacific (Ocean)(太平洋), the Sea of Japan(日本海), the Themes (River)(テムズ川), the Suez Canal(スエズ運河)
8-1-2-3-2: (b)海峡・半島・砂漠
- the Izu Peninsula(伊豆半島), the Sahara (Desert)(サハラ砂漠)
8-1-2-3-3: (c)公共建築物
- the British Museum(大英博物館), the Hibiya Library(日比谷図書館), the Eiffel Tower(エッフェル塔)
8-1-2-3-4: (d)船舶・列車
- the Titanic(タイタニック号), the Queen Elizabeth(クイーンエリザベス号)
8-1-2-3-5: (e)新聞・雑誌
- The New York Times(ニューヨーク・タイムズ), The Economist(エコノミスト)
※新聞名にはたいてい〈定冠詞〉をともなうが、雑誌名にはともなわないものが多い。本来〈抽象名詞〉だったものを雑誌名にしたTimesやVogueなどには〈定冠詞〉は結びつかない。
8-2: 〈不定冠詞〉と〈固有名詞〉、または〈複数形〉
〈不定冠詞〉がどのようなばあいに使われるのか、思い出してみよう(→3-1-1「〈可算名詞〉の基本的用法」)。〈不定冠詞〉は、「数えなければそもそも意味を為さない」名詞をこれから述べますよ、という予言の機能を果たし、〈可算名詞〉が後続するのだった。そしてそれは、名詞の〈単数形〉だった。〈固有名詞〉を〈可算名詞〉として使いたいとき、〈不定冠詞〉をあらかじめ述べておくことがある。
また、〈固有名詞〉を〈可算名詞〉として使いたいが、単数でないならば〈不定冠詞〉は用いず、〈複数形〉にすればよいだけである。
8-2-1: (1)「~という人」
- There is a Mr. Brown downstairs.(下にブラウンさんとかいう人が来ているよ。)
- We have two Yamadas in this class.(このクラスには山田が2人いる。)
8-2-2: (2)「~のような人」
- She will be a Mother Teresa some day.(彼女はいつかマザー・テレサのような人物になるだろう。)
- He is the Edison of Japan.(彼は日本のエジソンだ。)
2文めは、他に比類ないことを強調するために〈定冠詞〉が使われている(16-3「〈定冠詞〉の用法」を参照)。「日本のエジソンとよびうるような人々のうちの1人」といいたいばあいはan Edisonになる。
8-2-3: (3)「~家の人」
- His father was a Stuart.(彼の父はスチュアート家の出身だった。)
〈定冠詞〉を先行させてthe Stuartというと、「スチュアート家の人々」「スチュアート夫妻」「スチュアート兄弟」などさまざまな意味になる。
またthe Stuarts(スチュアート夫妻)と〈複数形〉にすることもよくある。
8-2-4: (4)「~の作品、製品」
- There was a Picasso on the wall.(壁にはピカソの絵がかかっていた。)
- He has two Toyotas.(彼はトヨタの車を2台持っている。)
第4節から第8節まで、いわゆる学校英語の5分類にもとづいて、各種名詞の注意点を述べてきた。
繰り返すが、我々の立場は、〈固有名詞と一般名詞〉の区別、〈可算名詞と不可算名詞〉の区別の、2つの区別のみを有意義なものとみなし、意味的な5分類は、学習上の「方便」として「軽く」扱ってきた。学校英語が「転用」と説明する現象は、たんに言葉の意味に〈単位性〉があるかどうかだけの問題であって、特別な文法的意義があるわけではない。
ここまで学習した知識で、一般的な次のような問題を解くことができる。