〈抽象名詞〉はものごとの状態や、概念、感情など、形のない抽象的な意味を表す〈名詞〉である。学校英語の5分類では〈不可算名詞〉とされている。例の「体系的分類」にしたがえば、〈可算名詞〉の〈抽象〉および〈不可算名詞〉の〈抽象〉に分類される。学校英語では、もちろん、〈抽象名詞〉が〈可算名詞〉として使われるケースは「〈一般名詞〉への転用」としている。
この分断は、いっけんややこしさを生んでしまうように見えるが、ここでは、学校英語は「原則として〈抽象名詞〉は〈不可算名詞〉」としていることに注目しよう。「原則として」ということは、「例外」があるということだ。そして「例外」こそが、試験で問われやすいともいえるのだ。
とはいえ、日本語の語感では数えられるように感じるが、英語においては数えられないという、〈不可算名詞〉にまつわる一般的な問題にまずは対処しておこう。
一般的には〈無冠詞・単数形〉で用いる:
information(情報)やadvice(助言)は〈不可算名詞〉だから、[誤]an informationとか[誤]informations、[誤]an adviceとか[誤]advicesなどは誤りである。
この先、いかに「〈抽象名詞〉は〈不可算名詞〉」と断言する学校英語が誤りであるかをあげつらっていくことになるが、なかには、どのようなばあいであっても〈不可算名詞〉としてしか使われない〈純不可算名詞〉がある。これもまた試験で問われやすいポイントである。
どのようなばあいでも〈不可算名詞〉である〈純不可算名詞〉の〈抽象名詞〉のうち、高校生レベルで覚えておくべきものをリストしておく:
こうした単語リストを覚えるとき、いつでも注意して欲しいことは、ここにある意味においてのみ、あてはまるということだ。たとえばworkは「労働」という意味なら〈不可算名詞〉だが、「作品」という意味なら〈可算名詞〉である。
〈抽象名詞〉に分類される名詞を、〈可算名詞〉として使うばあい、学校英語では「〈抽象名詞〉の〈普通名詞〉への転用」と説明する。しかし、「転用」がどうのこうのと考えるより、(1)辞書をひけば[C]と[U]のそれぞれの意味が掲載されているし、(2)そもそも意味したいことに〈単位性〉があるのなら問答無用で〈可算名詞〉である。
例を見るほうが早い:
例文1は、〈不可算〉の〈抽象名詞〉としてdifficulty(困難)を使っている。with difficultyで熟語にもなっているから覚えておこう。
例文2は、difficulty(困難なこと)とhardship(苦労)を〈可算名詞〉として扱っている。訳語の「艱難辛苦」が難しいと感じたら、「苦難」とか「困難と苦労」とかでもいいだろう。ここでは、ひとつふたつと数えあげることができる、具体的な出来事が念頭におかれている。
「困難」という抽象的概念は、形もなければ、始めと終わりという明確な境界線もないため、〈単位性〉を持たない。だから〈不可算名詞〉である。しかし「困難なこと」については、我々は「あのときの、あのこと」というふうに指し示すことができる「出来事」であって、〈単位性〉を持っているといってよい。つまり〈可算名詞〉である。
例文1ではbeautyが「美」という抽象的概念として使われており、〈不可算名詞〉である。
例文2ではa beautyが「美人」という意味で使われており、〈可算名詞〉である。
例文3では「美点」という意味で使われており、〈可算名詞〉である。この意味では〈複数形〉のbeautiesもしばしば使われる。
例文1ではsuccessを「成功」という抽象的概念として使っているのに対し、例文2では「成功」という性質を持った人・物・行為という具体的ななにか、ここでは「成功者」という意味で使っている。前の例のa beautyなどと同じ使い方である。
例文1ではkindnessを「親切、優しさ、思いやり」という抽象的概念(感情や状態)として使っているのに対して、例文2では「親切な行為」という具体的な行為を表す言葉として使っている。これも前の例のように、kindnessという性質を持った人・物・行為を表すケースだ。
例文1ではnecessityを「必要、必要性」という抽象的概念として使っているの対して、例文2では「必要なもの、必需品」という具体的ななにかとして使っている。
こうした例は、あげていけばきりがない。重要なのは、辞書で引いたことがない単語(意味を知らない単語ではない!)があれば、必ず辞書をひいて、様々な意味の様々な用法を目にしておくことである。
〈限定詞〉(determinative)という新しい文法用語が出てきた。現時点ではあまり厳密に覚える必要はないし、〈冠詞〉の項目で再度触れるが、ここでもざっくりと触れておくことにしよう。〈冠詞相当語〉とはどう違うのか?
『Forest』では、「第18章 名詞」と「第19章 冠詞」の間に「限定詞とは」と題された2ページのコラムが掲載されている。そこでの定義を引用する:
「限定詞」(determiner)とは、a、the、my、this、someのような名詞の前に置かれる語を指す用語である。「冠詞」や「所有格」などを1つの呼び名でまとめるのは、「後に続く名詞についてあらかじめ情報を与える」という共通の働きがあるからだ。(『Forest』[473])
「限定」という言葉から、〈形容詞〉や〈分詞〉の〈限定用法〉と〈叙述用法〉を想起したかもしれない。その意味での〈限定〉と考えて差し支えない。〈名詞〉の意味の可能性をあらかじめ限定する働きをするからだ。
表にまとめよう:
限定詞の種類 | 限定詞の例 |
---|---|
不定か特定かを表す | a, an, the, this, that, these, those, my, your, his, her, its, our, their |
数や量を表す | all, some, any, no, every, both, each, many, much など |
上記のうち、「不定か特定かを表す限定詞」は2つ続けて用いることはできない。
たとえば、「この私のカメラ」というときに、[誤]this my cameraということはできないから、[正]this camera of mineということになる。
また、〈不定・特定〉と〈数量〉は続けて使うことができるから、all the booksとかboth my booksのようにいうことはできる。このときは語順が重要で、[誤]the all booksとか[誤]my both booksなどということはできない(→17-1-2-4)。
〈限定詞〉に似た文法用語に〈冠詞相当語〉というものがある。これはその名の通り、〈冠詞〉に相当する語であるから、さらに〈冠詞〉で名詞を限定する必要はないし、することもできない。
種類 | 例 |
---|---|
不定冠詞相当語 | one, another, some, any, each, every, either, neither, no |
定冠詞相当語 | 指示代名詞(this, these, that, those)、所有格人称代名詞(my, your, his, her, its, our, their)、疑問代名詞(名詞を修飾するばあい)、関係代名詞(名詞を修飾するばあい)など |
〈冠詞相当語〉と〈限定詞〉には重なり合う部分があることがわかる。現時点ではあまり厳密に覚えようとする必要はないし、混乱するだけだろうから、ここでは、〈限定詞〉と〈冠詞相当語〉には重なり合う部分がかなりあるが、そっくりそのまま同じ意味ではない、とだけ考えておけばよい。英語の学習を進めていけば、いずれ、直観的に「わかる」ときがやってくるはずだ。
〈抽象名詞〉によっては、someやmuchなどで、量や程度を示すことがある。
3つめの例文のaはsome(いくらか)の意味である(→16-2-2-3)。at a distance(ちょっと離れて)やfor a time(しばらくの間)なども同じである。
〈物質名詞〉を数えるときに〈単位〉を用いたように、具体的に数えるときはa piece ofやan item ofを使う。
〈of+(代)名詞〉などで〈抽象名詞〉が後ろから限定されるばあい(これを後置修飾という)、〈定冠詞〉で前から限定することがある。
ただし、「後置修飾されるならば、〈定冠詞〉を使う」と機械的に考えてはならない。後置修飾されることによって、「特定の、例の、あの、この世で唯一の」という意味が備わるばあいにのみ、〈定冠詞〉が必要だというだけだ。
of this schoolで後置修飾されていても、「どの」従業員なのかは、それだけでは〈特定〉されない。
〈抽象名詞〉を〈形容詞〉が限定しているとき、具体的な例や種類を指すために〈可算名詞〉となり、〈不定冠詞〉で前から限定するばあいがある。ただし、7-1-2「〈可算名詞〉としての使い方」で述べた〈純不可算名詞〉のように、どんな〈形容詞〉によって限定されようとも〈可算名詞〉にはならない名詞には、〈不定冠詞〉を使わない。
〈純不可算名詞〉の〈抽象名詞〉を再掲しておく:
〈抽象名詞〉の慣用表現に、〈前置詞+抽象名詞〉で〈形容詞〉や〈副詞〉の働きをするものがある。これは試験に出やすいため覚えておくのが得策だろう。文法問題はもとより、長文読解において当たり前のように使われる。
最後にひとつ注意点。
ここではできるだけ、単発の語彙やイディオムではなく、例文で紹介したが、やはり「可能な・ありうる表現」をたくさん目にしておくことが重要だ。
たとえば〈抽象名詞〉のimportanceを(学校英語の言い方を借りれば)「〈普通名詞〉に転用」してan importance(ある種の重要性)という意味で使うことができる。しかし、だからといって、勝手な英作文をしてはならない。
「彼は我々のチームにとって非常に重要だ。」という意味で:
とはいえない。この意味では:
のようにいう。