高校生のための英文法:名詞と冠詞

第7節 〈抽象名詞〉 abstract nounsの用法

〈抽象名詞〉はものごとの状態や、概念、感情など、形のない抽象的な意味を表す〈名詞〉である。学校英語の5分類では〈不可算名詞〉とされている。例の「体系的分類」にしたがえば、〈可算名詞〉の〈抽象〉および〈不可算名詞〉の〈抽象〉に分類される。学校英語では、もちろん、〈抽象名詞〉が〈可算名詞〉として使われるケースは「〈一般名詞〉への転用」としている。

この分断は、いっけんややこしさを生んでしまうように見えるが、ここでは、学校英語は「原則として〈抽象名詞〉は〈不可算名詞〉」としていることに注目しよう。「原則として」ということは、「例外」があるということだ。そして「例外」こそが、試験で問われやすいともいえるのだ。

とはいえ、日本語の語感では数えられるように感じるが、英語においては数えられないという、〈不可算名詞〉にまつわる一般的な問題にまずは対処しておこう。

7-1: 〈抽象名詞〉の用法

7-1-1: 一般的用法

一般的には〈無冠詞・単数形〉で用いる:

  1. She finds information through reading papers.(彼女は新聞を読むことで情報を見つけている。)
  2. He gave me advice.(彼は私に助言をしてくれた。)

information(情報)やadvice(助言)は〈不可算名詞〉だから、[誤]an informationとか[誤]informations、[誤]an adviceとか[誤]advicesなどは誤りである。

この先、いかに「〈抽象名詞〉は〈不可算名詞〉」と断言する学校英語が誤りであるかをあげつらっていくことになるが、なかには、どのようなばあいであっても〈不可算名詞〉としてしか使われない〈純不可算名詞〉がある。これもまた試験で問われやすいポイントである。

どのようなばあいでも〈不可算名詞〉である〈純不可算名詞〉の〈抽象名詞〉のうち、高校生レベルで覚えておくべきものをリストしておく:

  • advice(助言), applause(拍手喝采), behavior(行動), conduct(行い), damage(損害), equipment(設備), fun(楽しみ), harm(害), homework(宿題), information(情報), luck(運), music(音楽), news(知らせ), progress(進展), weather(気象), wisdom(知恵), work(労働)

こうした単語リストを覚えるとき、いつでも注意して欲しいことは、ここにある意味においてのみ、あてはまるということだ。たとえばworkは「労働」という意味なら〈不可算名詞〉だが、「作品」という意味なら〈可算名詞〉である。

7-1-2: 〈可算名詞〉としての使い方

〈抽象名詞〉に分類される名詞を、〈可算名詞〉として使うばあい、学校英語では「〈抽象名詞〉の〈普通名詞〉への転用」と説明する。しかし、「転用」がどうのこうのと考えるより、(1)辞書をひけば[C]と[U]のそれぞれの意味が掲載されているし、(2)そもそも意味したいことに〈単位性〉があるのなら問答無用で〈可算名詞〉である。

例を見るほうが早い:

  1. We did it with difficulty.(我々は苦労してそれをやり遂げた。)
  2. The soldiers overcame many difficulties and hardships.(兵士たちは多くの艱難辛苦を乗り越えた。)

例文1は、〈不可算〉の〈抽象名詞〉としてdifficulty(困難)を使っている。with difficultyで熟語にもなっているから覚えておこう。

例文2は、difficulty(困難なこと)とhardship(苦労)を〈可算名詞〉として扱っている。訳語の「艱難辛苦」が難しいと感じたら、「苦難」とか「困難と苦労」とかでもいいだろう。ここでは、ひとつふたつと数えあげることができる、具体的な出来事が念頭におかれている。

「困難」という抽象的概念は、形もなければ、始めと終わりという明確な境界線もないため、〈単位性〉を持たない。だから〈不可算名詞〉である。しかし「困難なこと」については、我々は「あのときの、あのこと」というふうに指し示すことができる「出来事」であって、〈単位性〉を持っているといってよい。つまり〈可算名詞〉である。

  1. I cannot appreciate her sence of beauty.(ぼくには彼女の美的感覚が理解できない。)
  2. Cleopatra was a famous beauty.(クレオパトラは有名な美人だった。)
  3. Her smile is one of her chief beauties.(彼女の微笑は彼女のおもな美点のひとつだ。)

例文1ではbeautyが「美」という抽象的概念として使われており、〈不可算名詞〉である。

例文2ではa beautyが「美人」という意味で使われており、〈可算名詞〉である。

例文3では「美点」という意味で使われており、〈可算名詞〉である。この意味では〈複数形〉のbeautiesもしばしば使われる。

  1. Hard work does not always bring success.(勤勉に努力すれば成功するとは限らない。)
  2. She was a great success as an actress.(彼女は女優として大成功した。)

例文1ではsuccessを「成功」という抽象的概念として使っているのに対し、例文2では「成功」という性質を持った人・物・行為という具体的ななにか、ここでは「成功者」という意味で使っている。前の例のa beautyなどと同じ使い方である。

  1. He treated us with kindness.(彼は我々を親切に扱ってくれた。)
  2. She has shown me many kindnesses.(彼女は私にいろいろ親切にしてくれた。)

例文1ではkindnessを「親切、優しさ、思いやり」という抽象的概念(感情や状態)として使っているのに対して、例文2では「親切な行為」という具体的な行為を表す言葉として使っている。これも前の例のように、kindnessという性質を持った人・物・行為を表すケースだ。

  1. Necessity is the mother of invention.(必要は発明の母。)
  2. Is money a necessity for happiness?(お金は幸福になくてはならないものだろうか?)

例文1ではnecessityを「必要、必要性」という抽象的概念として使っているの対して、例文2では「必要なもの、必需品」という具体的ななにかとして使っている。

こうした例は、あげていけばきりがない。重要なのは、辞書で引いたことがない単語(意味を知らない単語ではない!)があれば、必ず辞書をひいて、様々な意味の様々な用法を目にしておくことである。

7-1-3: なんらかの〈限定詞〉で修飾されるばあい

〈限定詞〉(determinative)という新しい文法用語が出てきた。現時点ではあまり厳密に覚える必要はないし、〈冠詞〉の項目で再度触れるが、ここでもざっくりと触れておくことにしよう。〈冠詞相当語〉とはどう違うのか?

『Forest』では、「第18章 名詞」と「第19章 冠詞」の間に「限定詞とは」と題された2ページのコラムが掲載されている。そこでの定義を引用する:

「限定詞」(determiner)とは、a、the、my、this、someのような名詞の前に置かれる語を指す用語である。「冠詞」や「所有格」などを1つの呼び名でまとめるのは、「後に続く名詞についてあらかじめ情報を与える」という共通の働きがあるからだ。(『Forest』[473])

「限定」という言葉から、〈形容詞〉や〈分詞〉の〈限定用法〉と〈叙述用法〉を想起したかもしれない。その意味での〈限定〉と考えて差し支えない。〈名詞〉の意味の可能性をあらかじめ限定する働きをするからだ。

表にまとめよう:

限定詞の種類 限定詞の例
不定か特定かを表す a, an, the, this, that, these, those, my, your, his, her, its, our, their
数や量を表す all, some, any, no, every, both, each, many, much など

上記のうち、「不定か特定かを表す限定詞」は2つ続けて用いることはできない

たとえば、「この私のカメラ」というときに、[誤]this my cameraということはできないから、[正]this camera of mineということになる。

また、〈不定・特定〉と〈数量〉は続けて使うことができるから、all the booksとかboth my booksのようにいうことはできる。このときは語順が重要で、[誤]the all booksとか[誤]my both booksなどということはできない(→17-1-2-4)。

〈限定詞〉に似た文法用語に〈冠詞相当語〉というものがある。これはその名の通り、〈冠詞〉に相当する語であるから、さらに〈冠詞〉で名詞を限定する必要はないし、することもできない。

種類
不定冠詞相当語 one, another, some, any, each, every, either, neither, no
定冠詞相当語 指示代名詞(this, these, that, those)、所有格人称代名詞(my, your, his, her, its, our, their)、疑問代名詞(名詞を修飾するばあい)、関係代名詞(名詞を修飾するばあい)など

〈冠詞相当語〉と〈限定詞〉には重なり合う部分があることがわかる。現時点ではあまり厳密に覚えようとする必要はないし、混乱するだけだろうから、ここでは、〈限定詞〉と〈冠詞相当語〉には重なり合う部分がかなりあるが、そっくりそのまま同じ意味ではない、とだけ考えておけばよい。英語の学習を進めていけば、いずれ、直観的に「わかる」ときがやってくるはずだ。

7-1-3-1: 量や程度を示す〈限定詞〉

〈抽象名詞〉によっては、someやmuchなどで、量や程度を示すことがある。

  1. He has not had much experience.(彼はあまり経験がない。)
  2. A little knowledge is a dangerous thing.(少しだけ知識があるということは危険なことだ。=生兵法は怪我の元。)《諺》
  3. He has a knowledge of French.(彼はフランス語が少しできる。)

3つめの例文のasome(いくらか)の意味である(→16-2-2-3)。at a distance(ちょっと離れて)やfor a time(しばらくの間)なども同じである。

7-1-3-2: 具体的に数えるばあい

〈物質名詞〉を数えるときに〈単位〉を用いたように、具体的に数えるときはa piece ofan item ofを使う。

  1. A piece of good advice is worth a pocketful of gold.(1つのよい助言はポケットいっぱいの金の価値がある。)
  2. She sent us an item of news.(彼女は我々にニュースを1つ届けてくれた。)
  3. You gave us a wonderful piece of information.(きみは我々にすばらしい情報をくれた。)

7-1-3-3: 〈定冠詞〉

〈of+(代)名詞〉などで〈抽象名詞〉が後ろから限定されるばあい(これを後置修飾という)、〈定冠詞〉で前から限定することがある。

  1. You should know the difficulty of learning how to drive a car.(きみは車の運転を覚える難しさを知るべきだ。)
  2. I have learned the strength of human spirit.(私は人間の精神の強さを学んできた。)
  3. Will you have the kindness to help us now?(いま、手伝ってもらってもよろしいですか?)

ただし、「後置修飾されるならば、〈定冠詞〉を使う」と機械的に考えてはならない。後置修飾されることによって、「特定の、例の、あの、この世で唯一の」という意味が備わるばあいにのみ、〈定冠詞〉が必要だというだけだ。

  • She saw an employee of this school driving a car.(彼女はこの学校の従業員が車を運転しているところを見た。)

of this schoolで後置修飾されていても、「どの」従業員なのかは、それだけでは〈特定〉されない。

7-1-3-4: 〈形容詞〉

〈抽象名詞〉を〈形容詞〉が限定しているとき、具体的な例や種類を指すために〈可算名詞〉となり、〈不定冠詞〉で前から限定するばあいがある。ただし、7-1-2「〈可算名詞〉としての使い方」で述べた〈純不可算名詞〉のように、どんな〈形容詞〉によって限定されようとも〈可算名詞〉にはならない名詞には、〈不定冠詞〉を使わない。

  1. She had a happy marriage.(彼女は幸せな結婚生活を送った。)
  2. In most case a polite refusal would be appropriate.(たいていのばあい、丁寧に断るのが適切だろう。)
  3. I have a bit of good news to tell everyone.(みんなに伝えたいいい知らせがある。)
  4. He is making steady progress in speaking English.(彼は英語を話すのが着実に進歩している。)

〈純不可算名詞〉の〈抽象名詞〉を再掲しておく:

  • advice(助言), applause(拍手喝采), behavior(行動), conduct(行い), damage(損害), equipment(設備), fun(楽しみ), harm(害), homework(宿題), information(情報), luck(運), music(音楽), news(知らせ), progress(進展), weather(気象), wisdom(知恵), work(労働)

7-1-4: 〈前置詞+抽象名詞〉

〈抽象名詞〉の慣用表現に、〈前置詞+抽象名詞〉で〈形容詞〉や〈副詞〉の働きをするものがある。これは試験に出やすいため覚えておくのが得策だろう。文法問題はもとより、長文読解において当たり前のように使われる。

7-1-4-1: 〈of+抽象名詞〉(≒形容詞)

  1. He is a man of ability.(彼は有能な人だ。)※=able
  2. It is of great importance to Japan both politically and economically.(日本にとって政治的にも経済的にも非常に重要である。)※=important
  3. That book is of use to me.(あの本は私には役立つ。)※=useful
  4. This book is of no use to me.(この本は私には役に立たない。)※=useless
  5. This old coin is now of value.(この古コインはいまでは価値がある。)※=valuable
  6. These old coins are now of no value.(これらの古コインはいまでは無価値だ。)
  7. It is of great worth.(それはおおいに価値がある。)※=worthy

7-1-4-2: 〈with+抽象名詞〉(≒副詞)

  1. Treat it with care.(注意してそれを扱いなさい。)※=carefully
  2. We did it with difficulty.(我々は苦労して〔かろうじて〕それを成し遂げた。)※=barely
  3. It was done with ease.(楽々とできた。)※=easily
  4. She showed me the way to the station with kindness.(彼女は親切にも駅への道を教えてくれた。)※=kindly
  5. The parrot would say with rapidity.(そのオウムは早口でいったものだ。)※=repidly

7-1-4-3: その他

  1. I live at leisure.(私はのんびり〔ゆっくり〕暮らします。)※=leisurely
  2. At length, the Liberal Democratic Party went out of power.(ついに自民党が野党に下った。)※=finally
  3. An animal can move at will.(動物は意のままに動く。)※=freely
  4. I met her by accident.(偶然に彼女に出会った。)※=accidentally
  5. I drank something by mistake.(まちがって何かを飲んでしまった。)※=mistakenly
  6. I was watching in excitement.(私はハラハラして見ていた。)※=excitedly
  7. They parted in anger.(彼らは怒って別れた。)※=angrily
  8. Let's go in haste!(急いでいこう!)※=hastily
  9. There are no problems in particular.(特に問題はない。)※=particularly
  10. That doesn't make it in time.(それは間に合わない。)
  11. He made a mistake on purpose.(彼は故意に間違えた。)※=intentinally
  12. Are we arriving on time?(時間通りに到着しますか?)※=punctually

最後にひとつ注意点。

ここではできるだけ、単発の語彙やイディオムではなく、例文で紹介したが、やはり「可能な・ありうる表現」をたくさん目にしておくことが重要だ。

たとえば〈抽象名詞〉のimportanceを(学校英語の言い方を借りれば)「〈普通名詞〉に転用」してan importance(ある種の重要性)という意味で使うことができる。しかし、だからといって、勝手な英作文をしてはならない。

「彼は我々のチームにとって非常に重要だ。」という意味で:

  • [誤]He has a big importance in our team.

とはいえない。この意味では:

  • [正]He is of great importance in our team.※inの代わりにtoでも可。

のようにいう。