第6節 〈物質名詞〉 material nounsの用法
〈物質名詞〉は例の「体系的分類」にしたがえば、〈不可算名詞〉のうち〈具象〉に属する名詞である。〈集合名詞〉について見たように、例の体系的分類には瑕疵がある。〈集合名詞〉にも〈不可算名詞〉があったのだから。〈物質名詞〉にかんしても、「〈不可算名詞〉として用いられることが圧倒的に多い」ぐらいに割り引いて考えたほうがよいだろう。
とはいえ、高校生レベルないし大学入試レベルでは、〈物質名詞〉のほとんどは〈不可算名詞〉として使われると考えてよい。だから〈不可算名詞〉についてあてはまる特徴(3-1-1「〈不可算名詞〉の基本的用法」参照)はすべてあてはまる。すなわち:
- 〈複数形〉にできない:[正]chalk(チョーク) [誤]chalks
- 〈不定冠詞〉に後続できない:[正]butter(バター) [誤]a butter
- 〈数詞〉で直接修飾できない:[正]two bars of chocolate(板チョコ2枚) [誤]two chocolates
- 量の多少を表す語で修飾できる:[正]much soap(大量の石けん) [誤]many soap
6-1: 〈物質名詞〉の用法
6-1-1: 総称用法
「~というもの」とその種類に属するもの全体について述べたいことがある(3-1-1-2「〈可算名詞〉の総称用法」参照)。〈物質名詞〉についてこう述べるばあい、〈単数形〉で〈無冠詞〉で述べる:
- Light travels faster than sound.(光は音よりも速い。)
6-1-2: 不定量の〈物質名詞〉
量がどれだけか、ということを厳密に述べる必要がない、あるいは厳密さに関心がないばあいには、some, any, much, (a) little, a lot ofなどで〈単数形〉を修飾する。
- Japan has little oil to develop.(日本には開発できる石油がほとんどない。)
- "Do you have any water?" "Yes, I have some."(「水はいくらかでもある?」「うん、いくらかあるよ」)
6-1-3: 〈特定〉の〈物質名詞〉
〈物質名詞〉のうちの〈特定〉のどれかについて述べるばあい、〈定冠詞〉や〈指示代名詞〉(this, thatなど)や〈人称代名詞の所有格〉で修飾する。
- The wine we drank last night was really bad.(昨夜飲んだワインは非常にまずかった。)
6-2: 〈物質名詞〉の量の表し方
日本人が〈物質名詞〉の学習について難しさを感じるとすれば、〈不可算名詞である集合名詞〉で見たのと同様、「数えられない感じがしない」という点にある。つまり〈物質名詞〉が難しいというよりも、〈不可算名詞〉が難しいと日本人は感じるのであり、これはひるがえって〈可算〉と〈不可算〉の区別が難しい、ということを意味している。
日本人の感覚では、「石造りの橋」も「川岸に落ちているいくつかの石」も同じ「石」だが、英語ではまったく異なるカテゴリーに属する名詞である。これは、なまじstoneという「同じ単語」を使っているから生じる「ややこしさ」であるともいえる(もちろん日本人にとってややこしいだけであり、ネイティブにとってはたんに便利なだけである)。日本人にとって、〈具象〉と〈抽象〉はイメージしやすいカテゴリー分けだが、〈可算〉と〈不可算〉はイメージするのが難しいカテゴリー分けだろう(そもそも日本語にないのだから)。
- The bridge is built of stone.(その橋は石造りだ。)
- There are many stones on the right bank of the river.(その川の右岸にはたくさんの石が落ちている。)
上の例文のうち、〈物質名詞〉で〈不可算〉なのは1つめの例文のstoneである。ここで、「数えられないけれども数える必要があるときの表現方法」をあげていくが、これが適用できるのはこの〈物質で不可算〉のほうのみである。受験でも頻出問題だから気をつけて欲しい。
以下、すべて、〈単位〉を示す語のほうを数える。つまりa piece of, two pieces of, three pieces of...と数えていく。
6-2-1: 形を示す語
- a bar of chocolate [gold, iron](チョコレート[金の延べ棒、鉄の棒]1枚[本])
- a block of ice [stone](氷[石]1塊)
- a cake of soap(石けん1個)
- a cut of lamb(子羊の肉1切れ)
- a deck of cards(トランプ1組)
- a drop of blood [water, oil](血液[水、油]1滴)
- a grain of solt [corn, rice, sand](塩[とうもろこし、米、砂]1粒)
- a loaf of bread(パン1塊)
- a pack of cards(トランプ1組)※トランプ1枚はa playing card
- a piece of chalk [paper](チョーク[紙]1本[枚])
- a sheet of paper(紙1枚)※形や大きさが決まった(定形の)紙はsheet、決まっていなければpiece
- a slice of ham [bread, cake](ハム[パン、ケーキ]1切れ)
6-2-2: 容器を示す語
- a bottle of beer [milk, wine](ビール[牛乳、ワイン]1瓶)
- a bowl of rice(ご飯1杯)
- a bucketful of water(バケツ1杯の水)
- a cup of tea(紅茶1杯)
- a glass of milk [water](牛乳[水]1杯)
- a handful of sand(一握りの砂)
- a jar of jam(ジャム1瓶)
- a spoonful of sugar(砂糖1さじ)
6-2-3: 単位を示す語
6-2-3-1: 長さ
- a foot of copper wire(銅線1フィート)
- a length of cloth(1反の布)
- a meter of cloth(布1メートル)
- a mile of cable(ケーブル線1マイル)
- a yard of silk(絹1ヤード)
6-2-3-2: 面積
- an acre of land(土地1エーカー)
- a hectare of land(土地1ヘクタール)
- a square mile of land(土地1平方マイル)
6-2-3-3: 容量
- a gallon of gassoline(ガソリン1ガロン)
- a litter of beer [wine](ビール[ワイン]1リットル)
- a pint of beer(ビール1パイント)
6-2-3-4: 重量
- a kilo of plutonium(プルトニウム1キロ)
- an ounce of tobacco(タバコ1オンス)
- a pound of butter [meat](バター[肉]1ポンド)
- a ton of coal(石炭1トン)
6-3: 注意すべき〈物質名詞〉
〈物質名詞〉としてよく使われる名詞には、〈普通名詞〉として使われる単語もある。先に述べたstoneのようなケースだ。
これは〈物質名詞〉にかんして注意すべきであるというよりも、同じ単語が〈単位性〉を持つばあいと持たないばあいとがある、という、〈可算性〉にかんする一般的な注意事項でしかない。
我々は一貫して、〈可算と不可算〉という名詞の区別にこだわってきた。この立場からいえば、名詞は〈可算〉のカテゴリーに属すか〈不可算〉のカテゴリーに属すかが決定的な違いであって、〈普通〉〈集合〉〈物質〉といった分類にさしたる意義はない。
学校英語ではこの分類に拘泥するあまり、不要な「厄介事」を抱え込んでしまっている。「stoneは〈物質名詞〉だが、例外的に〈普通名詞〉に転用されることがある」といった複雑な説明をしなくてはならなくなる。しかし我々の立場からいえば、たんに数えられるものをstoneとよぶばあいもあれば、数えられないものをstoneとよぶこともある、というだけの話である。
どちらも可能であるような単語は数多くあり、そのような単語はたんに多義的である、というだけである。
とはいえ大学受験では頻出項目でもあるため、いちおうここで触れておくことにする。以下にあげるのは一例であって、網羅的ではない。網羅するのは不可能だ。文脈によって判断できる感覚を、目にした(耳にした)文の蓄積によって獲得しておくべきだろう。
- cloth
- I need a piece of cloth.(1枚の布が必要だ。)
- I need to lay a cloth on the table.(テーブルにテーブルクロスを敷かなければならない。)※「テーブルクロス」の意味
- She was clothed in silk.(彼女は絹の服を着ていた。)※clotheで他動詞
- Put your dirty clothes into the laundry basket.(汚れた衣類は洗濯かごに入れなさい。)※clothesで[U]衣服
- The store carries men's clothing.(その店は男性用衣料品を扱っている。)※clothingで[U]衣料品、衣類
- copper
- Copper has been in use at least 10,000 years.(銅は少なくとも1万年は使用されてきた。)
- He makes a collection of coppers.(彼は銅貨を収集している。)※「銅貨、1ペニー」の意味
- fire
- Fire gives light and heat.(火は光と熱を出す。)
- The theater experienced two fires.(その劇場は2度の火事にあった。)※「火事」の意味
- glass
- Glass breaks easily.(ガラスは割れやすい。)
- He handed me a glass.(彼は私にコップを手渡した。)
- iron
- Steel is made from iron.(鋼は鉄から作られる。)
- An iron is a small appliance.(アイロンは小さな電化製品だ。)
- light
- Fire gives light and heat.(火は光と熱を出す。)
- Turn off all the lights.(電灯を全部消しなさい。)※「ライト、電灯」の意味
- paper
- This table is made of paper.(このテーブルは紙でできている。)
- She reads an English paper.(彼女は英字新聞を読む。)※「新聞」の意味
- He published a paper on politics.(彼は政治学についての論文を発表した。)※「論文」の意味
- Look through the papers, will you?(その書類に目を通してくれないか。)※「書類」の意味
- rubber
- The sole of this shoe is made of rubber.(この靴の靴底はゴム製だ。)
- May I borrow your rubber?(消しゴムを借りていい?)※「消しゴム」《英》の意味
- stone
- The bridge is built of stone.(その橋は石でできている。)
- The crowd threw stones at the police.(群衆が警官たちに投石した。)※投げる石には単位がある
- wood
- The bridge is of wood.(その橋は木でできている。)
- Oak is a hard wood.(オークは硬い木である。)※種類は単位がある
- water
- I was given only water.(私は水しか与えられなかった。)
- The ship is now in Japanese waters.(船は今や日本の海域に入った。)※多量の水・海・川などを指す